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ポーランドの自主労組『連帯』のブヤク氏が来日したときのこと。とある会合に夫人も同席した。長時間にわたる質疑応答で、氏はもちろん、かたわらの夫人もひどく疲れた様子だった。 休憩時間に、私は夫人を散歩に連れていくように頼まれた。買いたいものがあるらしい。言葉は? ときいたら、ポーランド語だけ、英語もドイツ語もだめという。こちらだって、ポーランド語は123も知らない。なんとかなるよ、と肩を押されていざ街へ。 手伝いの学生君も伴い3人で神保町界隈を歩いた。岩波がある交差点あたりに来ると、夫人は私たちにしきりにある単語をいった。それを探しているようだった。しかし、何なのかさっぱりわからない。 夫人はジェスチャーをまじえ、懸命に伝えようとするのだが、私たちは首をひねるばかり。出かける前に確かめておくべきだったと悔やんだが、引き返す時間はない。 今にして思えば、絵に描いてもらえばよかったのだ。メモ帳と鉛筆を渡して。 でも、絵がおそろしく下手だったら。いや、ルドンのような画家であっても、これ何、ってこともある。たとえば、この絵の木。 釈迦なら、菩提樹か沙羅の木が思い浮かぶところだが、どちらにも見えない。葉っぱがないし。木まぐれ美術館としては困るのである。うーむ。 いや、このアメリカ先住民の長老のような出で立ちのbuddhaには、樹種などわからない枯木ないし裸木こそが、ふさわしい。とりあえずそういうことにしておきますか。 さて、3人で途方に暮れていると、夫人は不意に何かに目をとめ、つかつかと歩み出した。その先には、黒いガラス扉のちょっと洒落た風の店があった。 私はあわてて呼び止めた。そして、大声で夫人にいった。 「ポルノ、ポルノ!」 その筋では有名な芳賀書店であった。夫人は驚いて振り返り、真っ赤な顔をして戻ってきた。結局、この日、通じたのは「ポルノ」の一語のみであった。 30年近く前の出来事だ。夫人がもっと美しい日本語を覚えて帰国したと、信じたい。 by フジグリーン・メグ スリノキネット
by kimagure-art
| 2015-03-06 00:00
| モダンアート
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