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妻の病が重くなってから、私は庭に対する関心を失った。看病に心を向けたからではない。私は冷たい夫だった。 彼女は私を恨んだ。少ない言葉でも、それは鋭く伝わった。私は逃げた。どこへ? 競馬へ。賭博はつみびとの避難所だ。 馬や騎手や血統や勝負服を覚えるにつれて、植物の名前を忘れていった。アカンサスとかエリンジウムが出走すると、ああ、うちにもあったな、と思いだす。それで終わり。 何年もかかって手入れした庭も、季節がひと巡りしただけで荒れてしまう。強いものははびこり、弱いものは滅びる。とんだナチュラルガーデンが出現する。 クチナシがオオスカシバによって丸裸にされ、ブルーベリーがイラガの餌食となる。それでも再び芽吹くのだから、植物とはたいしたものである。 しかし、耐えられなかった木もあった。ユーカリが、真夏の夜に倒れた。前の週に、幹から無数の新芽を出していた。最後の気力をふりしぼったのかもしれない。 バックヤードに屏風を持ちだして、さあ朝食。東洋趣味もいいですけど、なんとかなりませんか。この庭。 バラは伸び放題だし、鉢植えだってほったらかし。風通しも悪そう。ハンモックなんか吊って、蚊取り線香たかなくて大丈夫なの。 たぶん余計なお世話である。彼らは十分に満足だ。庭の要は、快適かどうかである。食卓にトカゲが登ってきても一向に差し支えない。かわいいもんですよ、トカゲって。 妻が亡くなって、庭はさらに荒れ果てた。彼女が植えたユリオプス・デージーは、溢れんばかりに花を咲かせていたのに、次第に弱って、枯れてしまった。 その跡に、挿し木で育てていた苗を植えた。なんとか成長して、今はあの黄色い花を疎らではあるが咲かせている。 私は、今年、絵画教室を開くことにした。それにあわせて、庭も快適な空間に変えようと思う。教室の名は、アトリエ・フローラ、と決めている。 by フジグリーン・メグ スリノキネット
by kimagure-art
| 2015-01-09 00:00
| モダンアート
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