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私たちは冬になると体温を逃がさないように衣類を着込む。手袋や帽子やマフラーをして外出する。それでも寒ければカイロを懐にする。 あらゆる動植物のなかで、ものを身にまとって寒さをしのぐのは、たぶん冬も働かねばならない人間だけである。多くの生き物は、生命活動を休んで、じっと春の到来を待つ。 葉を落として幹と枝ばかりになった姿は、その木のありようを教えてくれる。たとえば、ポプラは上へ上へと背伸びをしようとし、ムクゲは暴れ気味に広がろうとする、そういうスピリットのようなものが、それぞれの木にある。 さて、後景に描かれた梢は、どこか行き暮れている感じである。少し怒っているようにも見える。春になって芽吹くだろうか、そんな心配さえしたくなる。 人物は、やや顎を上げ、彼方の空を見つめている。しかし、眼鏡の奥の瞳は描かれない。姿勢は意志的であるが、頬は悲しげであり、何か言いたげな唇は、しかし固く閉ざされる。 自画像は、冬の落葉樹である。美化しようと韜晦しようと、それも含めて己のありようが現出する。だから、自画像はひとつの決意でもある。 鋭角の黒い梢と蒼白な肌の対照が、それを表している。 先年、この絵との対面を果たすことができた。 絵の前で、私はしばらくの間、動くことができなかった。 作者の自負と無念に、圧倒されていた。 靉光(あいみつ)は、この自画像を描いた後、応召して海を渡り、そして再び故国の土を踏むことはなかった。 帰ってきたのは、飯盒一個だけだった。 by フジグリーン・メグ スリノキネット
by kimagure-art
| 2009-12-30 17:05
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